個人金融資産と認知症高齢者

 先月は平成29年分の路線価が公表、また、現在法制審議会で検討されている民法(相続編)の改正試案の内容が日刊紙の1面で取り上げられるなど、このところ有難いことに相続に関する時事ネタには事欠きません。

 お陰でこのブログのネタと、某新聞社webサイトに定期的に掲載されるコラムの内容がよくカブるんですが・・・(^^;致し方ありませんね。 

 

 さて、以前このブログでもご紹介したように、相続財産の代表的なものと言えば今も昔も”土地”ですが、ここ10年程は様々な理由から”金融資産(現預金・有価証券)”の相続財産に占める割合がかなり増えています。

 国税庁の公表資料によれば、平成18年分では36.4%だったものが、最新の平成27年分では45.4%にまで上昇し、ついに土地・家屋(43.3%)を逆転しました。(詳しくはこちらをご覧下さい。)

 

 ではこの金融資産(現預金・有価証券)、今、日本の国民(家計)全体でどれ位保有しているかご存知ですか?

 

 その額はなんと約1,800兆円(2016年末時点)! これは日本の国家予算にして約20年分に相当する金額です。

 更に、総務省の統計などによると、そのうちの約2/3、すなわち約1,200兆円は子育てや仕事も一段落して現役を退かれた60歳以上の方が保有しているそうです。

 「どこにそんな金があるんだ!」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、意外とあるんですよ、きっと(^^)

 

 一方で、高齢者(65歳以上)の認知症患者数も年々増加しており、2025年には700万人(高齢者の5人に1人)になるとの推計が内閣府から出されています。

 認知症の症状にはその進行度合によって軽いものから重篤なものまで様々あると思いますが、ある程度進行が進んでしまうと日常生活で通常必要となる判断が出来なくなる可能性が高く、そのため財産管理(費消・投資等)や契約行為(贈与・賃貸借等)を単独で行うことは法的に難しくなります。

 

 そうなると、折角今まで長い間頑張って働いて、老後のためにと蓄えてきた金融資産がどんなにあったとしても、その財産をご自身の意思では自由に使うことが出来ず、配偶者や身の回りの世話をしてくれる親族が身近にいなければそのまま金融機関に眠らせておく他ありません。

 今後、そういった方が仮に高齢者の10人に1人の割合で生じるとしたら、100兆円規模の金融資産が相続発生時まで何に使われることもなくそのまま凍結されてしまうわけですから、その経済的損失は計り知れないですよね。

 何よりご家族や親族の方が、相続が開始するまでその財産の存在すら知る由もないとしたら、それは極めて切実な問題でしょう。

 

 そういった事態を回避する一つの契機・手段が「成年後見制度」であり、以前このブログでもご紹介した信託なのですが、管理手続の煩雑さや費用・報酬面の問題等でまだ利用されている方は限られているのが現状です。

 相続に携わる専門家として、今後はこれらの手段も含めてお客様の問題解決により適切・的確に対応していけるよう、サービスの巾をもっと拡げていかなければいけないなとつくづく思う今日この頃です。