”マイナンバー制度”と”相続”について考える

 本日(3/7)の日経1面もそうですが、このところ日刊紙にも”マイナンバー制度”に関する記事が増えてきました。

 マイナンバー(社会保障・税共通番号)制度は、翌2016年(平成28年)1月から社会保障(年金・健康保険・雇用保険)、税(国税・地方税)及び災害分野の行政事務において、国民一人ひとりを識別し、行政機関等が保有する国民の個人情報を連携する番号として利用が開始されるもので、法施行後は順次その活用範囲を拡げていくこと(例えば、個人の銀行預金口座や証券口座とマイナンバーを紐づける等)が予定されています。

 

 この制度導入による影響・効果は、国・自治体等における行政事務は勿論のこと、社会保障・税に関連する企業の内部業務(例えば、従業員の年末調整や社会保険手続等)や個人の各種申告・申請手続(例えば、確定申告や給付申請等)など非常に広範囲に亘りますが、遠からず”相続”の実務においてもその影響は及ぶとものと私は考えています。

 

 一般的な相続手続(遺言書がない場合)は、被相続人の死亡届の提出に始まり、

 ①法定相続人の特定

 ②相続対象財産・債務の調査・評価

 ③所得税(消費税)・準確定申告書の提出

 ④遺産分割協議

 ⑤相続財産の名義変更

 ⑥相続税・確定申告書の提出

といった流れになります。その際、確定申告書にマイナンバーを記載したり、申告・申請時に必要な各種公的文書(例えば、住民票の写しや印鑑登録証明書等)の提出をマイナンバーを活用することで省略するといった影響・効果は③・⑤・⑥において当然考えられます。

 

 一方、相続手続の中で最も時間を要し、慎重かつ専門的な判断が求められるのは②(相続財産が漏れなく適正な価額で評価・計上されているか)であって、課税当局(税務署)もそこに最大の関心があります。

 現在でも税務署は、管轄する住所地に居住する個人の所得・財産の状況は過去の確定申告書や各種支払調書などから概ね把握しています。

 しかし、全ての個人について正確な財産状況をリアルタイムに把握することは不可能で、しかも彼らが把握している情報は「Aさんは○○年に不動産や株式を○○万円で取得・売却した」、あるいは「BさんはCさんから○○年に○○万円の相続・遺贈を受けた」といった”フロー情報”を数年間積み上げたものです。個人のある時点における全ての財産状況、つまり”ストック情報”までは一部の高額所得者や高額財産保有者(いわゆる富裕層)を除いて把握していません。ある意味それを把握して最終的に清算する機会が相続税の申告・調査だったと言えます。

 

 相続税が昨年までの課税割合(約4%)であればそれで良かったかもしれませんが、今年から納税義務者の裾野が拡がり、都市部においては約4人に1人が課税対象になるとすれば、税務署としても今まで以上に生前から個人のストック情報をある程度把握しておくことが必要になるはずで、その一つの手段としてマイナンバーを最大限活用するという発想は極めて自然な流れでしょう。

 そう考えると、”銀行・証券・保険等の全金融機関口座の取引・残高情報”や”不動産の売買・登記情報”、”高額動産(自動車・船舶・リゾート会員権等)の保有情報”などを個人のマイナンバーと紐づけて課税当局が収集・集約可能な時代が近い将来実現しても不思議はありません。

 

 ただその際には、国の立場から納税義務の適正な履行に偏ったものにするのではなく、納税者にとっても実質的に役立つものにしてもらいたいと思います。

 高齢者の独り暮らしが増加している現在、被相続人(親)の財産・債務を完全に把握している相続人(配偶者・子供)はむしろ稀で、相続開始後に色々調べて初めてその存在が発覚する(あるいは申告後に発覚する)事も少なくありません。例えば、そういった事態を避けるために、相続人が税務署・自治体等に行って然るべき本人確認手続を行えば、行政機関が保有している被相続人の財産・債務情報を一箇所でまとめて開示してもらえるといったことが出来ても良いと思います。

 

 一方で今後相続税の納税義務者となる皆さんには、被相続人やご自身の財産状況は税務署側も相応に把握しているということを十分ご認識いただいて、申告に臨んでいただきたく必要があろうかと思います。

 いずれにしても折角導入する制度ですから、是非とも課税当局・納税義務者(更にはその代理人となる税理士)の双方にとって意義ある制度にしていただきたいですね。