相続税・贈与税はどうしてかかるのか?

 相続税や贈与税はなぜ課せられるのでしょうか?

 親が生前築き上げた財産を家族である配偶者や子供が相続しただけでどうして税金がかかるのか、考えられた事ありますか? 私も実際に相続を経験した際、若干疑問を感じました。「親の財産を家族がそのまま相続して何が悪い」と・・・。

 

 そもそも税金というのは、極めて粗っぽく言えば個人や法人が経済活動を通じて得た利益(儲け)に対して課税されるものです。だから、個人には所得税、法人には法人税が一定期間で課せられます。でも、相続は死亡に起因して親(被相続人)が生前に稼得した財産を配偶者や次世代の子供・孫等(相続人)に承継するだけで、そこには資産の売買といった経済活動もなければ、世帯家計で見れば利益も一見ないように思えます。

 しかし、財産は保有しているだけでも時が経てばその価値は変動します。例えば、数十年前に購入した土地や株式が、今では数倍・数十倍の価格になっているなんてことありますよね。その価値の上昇分のことを”キャピタル・ゲイン(Capital Gain)”と言いますが、そのキャピタル・ゲインに対しては生前何ら税金が課せられていないため、相続によって財産が移転するタイミングで課税し、個人の課税関係を清算・結了させるためにあるのが相続税なんです。そのために、相続財産は、原則、相続開始時(死亡時)の”時価”ですべて評価することになっています。

 この事は法人と比較するとより理解出来ます。法人税は法人の各事業年度の所得に対して課税されますが、法人が倒産・消滅する際の清算所得(残余財産)に対しても課税されます。一方、所得税は個人の各歴年の所得に対して課税されるだけで、個人が事業を廃業しても残余財産にまで課税されることはありません。個人にとって ”消滅する時” = ”死亡する時”ですから、個人が死亡した際の財産に相続税が課税されることによって法人の課税関係とも符合するわけです。

 もう一つの理由は、税金全般に通じて言える”富の再配分”という考え方です。相続財産に全く課税しなければ、一定の財産がある家系は特別な浪費をしない限りは常に裕福、そうでない家系はそうでないという不公平が永続的に生じるため、財産を多額に保有する者からは多く税金を国が徴収し、それを社会に再配分・還元するというわけです。この考え方は、相続税が超過累進税率であることからも推し量れます。

 

 では、贈与税はどうでしょうか。上述したように相続財産に対して相続税が課税されるなら、生前に保有している財産を家族や親族にすべて贈与してしまえば税金がかからない(あるいは少なくて済む)と考える人も当然出てきます。このような生前の贈与に対して何の規制を設けなければ、そもそも相続税自体が事実上無意味なものになってしまいますから、恣意的な相続税回避を防ぐための”補完税”として設けられたのが贈与税なんです。これは、税法の中に”贈与税法”という法律は存在せず、相続税法の一部に贈与税が規定されていることからも明らかです。

 

 このように相続税と贈与税は表裏一体の関係にありますから、課税当局(国税庁・税務署)は当然そのような視点で見ているわけですが、課税される側の個人も”相続”と”贈与”を別個のものとして考えるのではなく、両者を一体として捉えて戦略的に財産移転・承継を考える必要があります。昨今の税制改正は次世代への財産移転を促進する傾向にありますので、選択肢が増える今後はその重要性が益々高まると思います。