カルロス・ゴーン氏逮捕の衝撃

 今週から12月に入り、このところ気温も一気に下がって、いよいよ本格的な冬到来という感じですね。

 さて、今回は先月19日に経済界に大きな衝撃が走った「カルロス・ゴーン氏逮捕」に関する話題です。

 

 同氏と言えば、2000年頃に日産自動車㈱のCOOに就任するや否や、大胆なコストカットに加えて、将来発生するリストラ費用などの膿みを一気に吐き出し、翌年には華麗に黒字転換するという、いわゆるV字回復を見事に成し遂げ、業績不振に喘ぐ同社を再建したことで有名です。

 その後も同氏は、同社の最高経営責任者として君臨し続けたものの、リーマン・ショックの前後辺りから業績があまりパッとしなくなり、世間からの注目も徐々に薄れはしましたが、それでもやはりその間に彼が日本の企業経営、特に大企業に与えた影響はかなり大きかったのではないかと個人的には思っています。

 

 当時、私は監査法人や大手企業の基幹職に就いていましたが、長年事業を継続してきたことで色んなしがらみに囚われている大企業において、事業構造や企業体質をダイナミックに変革することの難しさを心底感じていました。

 ましてその会社一筋で働いてきて、たたき上げで経営層にまで上り詰めた人間に、過去のしがらみをすべて断ち切って経営方針の大幅な転換を図ることなど出来るわけもなく、会社がこれからも生き残っていくには、過去を全く知らない同氏のような社外のカリスマ経営者を招聘する他に道はないだろうと本気で思っていました。

 

 同じように考えていた会社がその当時どの程度あったか分かりませんが、実際、同氏がV字回復を図って以降、海外や社外から経営者・役員を登用する企業は確実に増えましたし、それに合わせて役員に支払う報酬もかなり高額になっていきました。

 確かに、会社の利益が右肩上がりで成長し続けるのであれば、それに貢献した役員には業績に見合った報酬を支払う価値があるのでしょうが、それもあまり長く続き過ぎると今回のようにいずれ馴れ合いが生じて、コントロール不能に陥ってしまうということなんですね。。。

 これを機に、日本企業の理想・目標とする経営モデルもきっと見直されていくことでしょう。

 

 そして、今後同社の経営陣には大なり小なり責任が問われることになると思いますが、同社の会計監査人である監査法人の責任も恐らく問われることになるでしょうね。

 今回同氏にかかっている容疑は金融商品取引法違反で、有価証券報告書の役員報酬を過少に記載したことが「有価証券報告書の虚偽記載」に該たるものと東京地検は考えているようですので、有価証券報告書の適正性を監査している監査法人にも責任が及んで然るべきだろうと思います。

 

 報道によると、担当した監査法人は「役員報酬は監査の対象外」と回答しているようですが、役員報酬額は有価証券報告書に記載される数字であり、株主招集通知にも決議事項として通常記載される数字ですから、少なくともその総額の裏付けくらいは確認していたはずですし、そもそもそういった数字を取り纏める社内の体制(内部統制)についてもレビュー・指導を行っていたはずです。

 また、今回の問題は「以前から社内では噂になっていた」との報道もあったくらいですから、そのことを監査法人が通常の職業的懐疑心の範囲で本当に知り得なかったのかということにも疑念を抱かざるを得ません。

 もちろん監査の限界は重々承知の上ですが、それでもことがあまりに重大なだけに株主・関係者からの責任追及は避けられないでしょうね。

 

 より詳細については、今後徐々に明らかになってくるものと思いますが、いずれにしても今回の事件は私にとって色んな意味で非常に残念でならない事件でした。(TT)