【相続のイロハ(第10回)】 債務控除② ~適用対象者~

 前回は、「相続税が課税される財産(積極財産)」から債務・葬式費用(消極財産)を控除できる「債務控除」の仕組みと範囲について解説しましたが、今回は債務控除が適用できる対象者についてお話します。

 

 債務控除は被相続人の債務や葬式費用を負担した誰もが適用できるわけではなく、適用できるのは原則”相続人(又は包括受遺者)”に限られています(相続税法13条1項)。

 ここで包括受遺者とは、被相続人から遺言によって特定の財産ではなく全ての相続財産のうち一定割合の財産を取得することを指示された相続人以外の者を言います。

 

 更に、相続人(又は包括受遺者)であっても”制限納税義務者”の場合には、債務については控除対象が以下のものに制限され、葬式費用については債務控除の適用がありません(相続税法13条2項)。

 ①国内にある財産に係る公租公課

 ②国内にある財産を目的とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権で担保される債務

 ③国内にある財産の取得、維持又は管理のために生じた債務

 ④国内にある財産に関する贈与の義務

 ⑤被相続人が死亡の際、国内に営業所又は事業所を有していた場合においては、当該営業所又は事業所に

  係る営業上又は事業上の債務

 

 平たく言えば、相続又は遺贈により取得した財産のうち国内にある財産に係る物的債務、あるいは被相続人が国内で行っていた営業上又は事業上の債務だけが控除の対象になるということで、葬式費用は勿論、被相続人の未払医療費や未払所得税等の人的債務は控除することができません

 これは、制限納税義務者の場合、そもそも相続又は遺贈により取得した財産のうち、国内にある財産にしか相続税が課税されないことになっているからです。

 尚、”制限納税義務者”とは相続又は遺贈により日本国内にある財産を取得した個人で無制限納税義務者以外の者を言いますが(相続税法1条の3 3項~4項)、通常殆どの方が無制限納税義務者ですのであまり気にされる必要はないかもしれません。

 

 また、葬式費用については相続人以外の者が負担するケースもあり得ることから、制限納税義務者に該当しない相続放棄者(又は相続権を失った者)が葬式費用を実際に負担した場合には例外的に控除することが認められています(相続税法基本通達13-1)。

 

 

 以上、ここまでで相続税が課税される財産(積極財産)にはどういうものがあり、またそこから控除できる債務・葬式費用(消極財産)にはどういうものがあるかが概ねご理解いただけたのではないかと思います。

 次回からはその各財産がどのように評価されるのかについて、主だったところを解説していきたいと思います。