前回まで、相続が発生した場合に必要となる相続税の計算・申告や関連する諸手続をいつまでにどのように行うのかについて解説してきました。
しかし、実際に相続が生じると、遺族の方々は各種法要や行政手続と並行してこれらの手続を行わなければならず、遺産分割・財産承継に関して選べる選択肢もかなり限定されてしまいます。
そういったことから、
○ 財産を相続人間でどのように按分・分割するのかを生前のうちにお考えになって、出来る限り遺言の形で
ご自身の遺志を遺されておく事
○ 財産を次世代に無理なく承継するために生前に取り得る対策を取捨選択し、計画的に実施される事
の二つを私の事務所ではお勧めしています。
勿論、生前に取り得る対策はご自身の家族構成(相続関係)や財産状況等によって何が最善なのかも変わってきますので、それらを伺った上で幾つかの選択肢をご提示して選択していただくわけですが、その方が個人(もしくは法人形態)で事業を経営されている方でない限り、対策としては概ね次の3つに集約されると私は考えています。
①各相続財産の課税価格を圧縮する
②相続時精算課税制度等を活用し財産から生ずる利得(将来の相続財産の一部)を生前から移転させる
③養子縁組等によって課税遺産総額を圧縮する
中でも①は、昨今話題になっている生前贈与の各種非課税制度を含めて色んな方策がありますので、それについては次回以降で解説していきたいと思います。
平成27年から相続税の基礎控除額が一律40%引き下げられ、税率は引き上げられる一方で、贈与税は最高税率こそ上がったものの、新たに「特例贈与(直系尊属から20歳以上の者への贈与)」が新設されて一定の税率軽減が図られたことから、国の政策としても従来の”事後的な相続”ではなく、”生前の贈与”をより積極的に活用させようとしていることは明らかです。
※特例贈与の受贈者の年齢は、成人年齢の引き下げに伴って令和4年4月1日以後は18歳に引き下げられました。
この傾向は当面続くものと思われますので、これからはそういった方策を上手く活用してご自身の財産を戦略的に次世代に承継していくことが極めて大事になります。
知っているか・知らないかの違いで将来のお子様方の税負担に大きな格差が生じる時代は既に始まっています。
そしてもう一つ忘れてならない事は、世の中が相続税増税で騒ぎ立っているからと言って、周囲に流されてやみ雲に生前対策に奔らないということです。
まずはご自身の家族構成(相続関係)や財産状況を概ね把握された上で、ご自身に万一の事があった場合にそもそも相続税を支払う可能性があるのかどうかを必ず確かめるようにして下さい。
この点、国税庁のHPに相続税の申告要否判定コーナーが設けられていますので、そちらで確かめてみられるのが良いと思います。
その上で、幾らか支払う可能性があるのであれば何かしら対策をされた方が良いということになりますが、その際も相続税額を抑えることばかり優先するのではなく、残された期間のご自身の生活資金とのバランスをよく考えて、多少税金は多めにかかったとしてもある程度資金にゆとりのある対策を計画・選択されることをお勧めします。
いくら用意周到に生前対策を行ったとしても、最期になってご自身の生活資金が底をついて破綻してしまっては元も子もありませんからね。
反対に相続税を支払う可能性がないとしても、相続財産の構成(例えば、相続財産の大半が居住用不動産で相続人が複数の場合など)によっては円満な相続のために生前に対策を取られておいた方が良い場合もあります。
そのような場合は、ご自身だけで悩まれずに専門家(弁護士・税理士等)に早めに相談しましょう。