昨年12月中旬に、平成31年度の税制改正大綱が与党から公表されました。
今後その内容はこの通常国会で審議され、今年3月末までに法案成立となる見込みですが、今回の改正案には相続に関連するものも多く含まれています。
主なものとしては、
①個人版・事業承継税制の創設 【平成31年1月1日~平成40年12月31日までの相続等・贈与に適用】
②特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例の見直し 【平成31年4月1日以後の相続等に適用】
③教育資金及び結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の期限延長と所得制限
【平成31年4月1日以後の贈与に適用】
④配偶者居住権の評価方法の制定 【平成32年4月1日から施行される同居住権に適用】
⑤成人年齢の18歳引き下げに伴う相続税法等の改正 【平成34年4月1日以後の相続等・贈与に適用】
などがあります。
この中で、私が最も関心を持って見ているのは④の「配偶者居住権の評価方法」です。
以前、民法(相続編)の改正が決定した際にもこのブログで取り上げましたが、実務上問題になると思われる重要な点の一つがこの「配偶者居住権の評価方法をどうするのか」ということでした。
そもそも配偶者居住権とは、遺産分割における配偶者の優遇・保護を目的として改正民法で新設されたもので、「配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物等を、相続開始後も配偶者に終身又は一定期間無償で使用・収益することを認める権利」のことをいいますが、今回の大綱では、そのうち遺産分割までの短期居住権を除いて長期居住権の評価を次のような方法で行うこととされています。
●配偶者居住権(建物)
建物の時価-建物の時価×{(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数}×
存続年数に応じた民法の法定利率による複利原価率
※残存耐用年数:所得税法に定められている居住建物の耐用年数(住宅用)×1.5-居住建物の築後経過年数
※存続年数:配偶者居住権の残存期間が配偶者の終身の間である場合は、配偶者の平均余命年数
上記以外の場合は、遺産分割協議等により定められた配偶者居住権の存続期間年数
※残存耐用年数又は残存耐用年数から存続年数を控除した年数がゼロ以下となる場合、{ }内はゼロ
●配偶者居住権(敷地)
土地等の時価-土地等の時価×存続年数に応じた民法の法定利率による複利原価率
尚、配偶者居住権が設定された建物やその敷地の所有権の評価額は、その時価から配偶者居住権に係る部分を控除した残額とされています。
これが一般の方々にとって果たして分かり易いものか、あるいは納得し得るものかどうかは何とも言い難いところですが、この算式の特性からすると、建物が古い(残存耐用年数が短い)、あるいは配偶者が若い(残存年数が長い)ほど居住用不動産の評価額に占める配偶者居住権の割合は高くなります。
また、配偶者居住権(敷地)はその所有権と同様に小規模宅地等の特例の対象になるものと思われることから、相続税の計算上、配偶者居住権を設定した方が得策なのか否かは、被相続人の財産状況や相続関係によっても大きく異なってきそうです。
一方、配偶者居住権は第三者へ譲渡ができず、かつ配偶者が死亡した時に消滅するものとされていることから、配偶者居住権が設定されている居住用不動産を売却した際や配偶者が死亡した二次相続の際の配偶者居住権に係る課税関係がどうなるのか(経済的利益に贈与税が課税されるのか)については、今後、当局からの通達等が示されない限りまだ何とも言えません。
いずれにしても、これは相続財産の中で金額的に大きな割合を占める自宅等の評価に関することですので、今後の動向にも注目したいところですね。