前回に引き続き、今回も具体例を交えて「代償分割による方法」と「換価分割による方法」での税額の違いを解説していきます。
【想定事例】 ~再掲~
・父親が平成27年中に死亡し、相続人は同居していた配偶者Aと長男B及び別居して生計別の次男Cの計3人
・遺産は自宅(土地200㎡及び家屋)5,000万円と預貯金1,000万円の計6,000万円
・土地及び家屋の相続税評価額は各々4,000万円・1,000万円の計5,000万円、時価(売買価額)は計6,000万円
・自宅は先代から相続したもの(10年超保有)で取得費は不明、譲渡費用(不動産仲介手数料等)は300万円
・相続人間では遺産を法定相続割合で分割することで協議が成立
(2)換価分割の場合
①相続税
代償分割の場合と異なり、換価分割の場合は売却代金の取得した割合に応じて各相続人が対象財産を按分取得したことになります。そのため、誰が自宅を相続するかは問題になりませんが、その取得割合によって相続税額がどのように変わるのかが問題です。
相続税においては”小規模宅地等の特例”を最大限活用することが課税価格を抑える最善策ですから、答えは適用要件を満たす配偶者Aの取得割合が多い程相続税額は低くなります。
本事例の場合、自宅の売却代金を法定相続割合で按分取得したとすると、配偶者Aが相続する土地の課税価格は1/2の2,000万円となり、本特例を適用した後の課税価格の合計額は4,400万円ですから、基礎控除額(4,800万円=3,000万円+600万円×3人)以下のため相続税額は発生しません。
ところが、配偶者Aは預貯金1,000万円をすべて相続することとし、法定相続分の残り2,000万円に相当する割合(2/5)だけ売却代金を取得したとしたらどうでしょう。
配偶者Aが相続する土地の課税価格は2/5の1,600万円となるため、本特例を適用した後の課税価格の合計額は4,720万円に上ります。これではまだ基礎控除額以下ですから相続税額は生じませんが、更に配偶者の売却代金の取得割合が少なくなれば相続税額はいずれ発生することになります。
尚、前回も記載しましたが、同居親族である長男Bは相続税の申告期限内に自宅を売却すると”小規模宅地等の特例”の適用要件(所有・居住)を満たさなくなり、本特例が適用できなくなりますのでご注意下さい。
②所得税・住民税
これまた代償分割の場合と異なり、換価分割の場合は対象となる相続財産を相続人が共有した状態で売却したことになりますから、その売却益も売却代金の取得した割合に応じて各相続人が稼得したものと考えます。
このため、所得税・住民税は各相続人が稼得した売却益に対して各々課税がなされます。
本事例の場合、自宅の売却代金を法定相続割合で按分取得したとすると、計5,400万円の売却益を配偶者Aが2,700万円、長男B・次男Cが1,350万円ずつ稼得したことになり、配偶者A・長男Bは”居住用財産の譲渡所得の特別控除(3,000万円)”を適用するといずれも税額は発生しませんが、次男Cは本特例が適用できないため、売却益1,350万円に対して本則税率約20%(所得税約15%・住民税5%)を乗じた約270万円が課税されることになります。
当然、本特例が適用できる配偶者Aあるいは長男Bの取得割合が減って次男Cの取得割合が増えれば、上記の税額もその分増えることは明らかですよね。
このように、「換価分割による方法」を選択した場合は、誰がどのような割合で売却代金(売却益)を取得するかが相続税や所得税・住民税の税額を決定する上で重要な要素になります。
以上、3回にわたって「代償分割による方法」と「換価分割による方法」での税額の違いを具体例を基に解説してきましたが、方法による各税額の相違はもちろんのこと、誰がどのような割合で財産を取得するかによっても税額が変わってくることがお分かりいただけたのではないかと思います。
今回想定した事例では法定相続割合で換価分割した場合の方が税負担が相対的に低くなりましたが、財産状況や相続関係によって結果は異なりますので、もしいずれかの方法を選択される場合は必ず税理士にご相談されるようにして下さい。